不思議話6:黒い人
昔から道端でよく見掛ける変な影。『影人』とでも呼ぶ事にする。
いつもボンヤリ突っ立っていて、声は発しない。ただ立っているだけ。
夜道などで普通の人と間違えた時は何となく嫌な気分になる。そんな存在だ。
ネットで出回っている『動く人影』と大きく異なるのは、[まるで意思を感じさせない]のと[絶対無音]といった所か。
上手く表現出来ないが、何にせよコイツは異様なのだ。
特に何もしないで突っ立ち続けてるだけなので、異様さを感じながらも無視して過ごす様にしていた。
…過去に一度、黒い影に驚かされた事がある。
そいつは上記の奴らとは異なるモノだと思うが、小学生だった当時は充分びっくりしたもんだ。
その日は確か暑かった。クーラーをつけても大して涼しいと思えなかった熱帯夜に、親父がビールを買ってこいと言う。
いつもなら一方的に[釣りは駄賃に貰う約束]を取り決めてヒョイヒョイ出ていくのだが、その時ばかりは違った。
脂汗って言うんだろうな。初めて変な汗をかいていた。
揚句に寒気までする。
『変な汗も出るし、なんか嫌な感じするから絶対やだ。』
そんな抵抗も虚しく親父に一喝され、結局行く羽目になった。
いつからか判らないけど不自然にドキドキしてる自分に気付く。
何も起きなければな…。なんて期待出来る程の余裕なんてものもなく、ただひたすらに[早く終わらせよう]としか頭に無なかった。
玄関を勢いよく開け、チャリに跨がる。
豪快な音と共に玄関を閉め、そのままこぎ出す。
当時[ドリフト]・[両手離し立ちこぎ]・[階段下り]等々を普通のチャリでやっていたくらい得意だったので、ロケットスタートもお手のモノ。
とっとと終わらせようと、団地の非常階段下を抜けようとした『その時』だった。
黒い人の上半身が突如[だらん]と堕ちて来たのだ。
正しくは『勢い良くぶら下がってきた』なのだが、辛うじて衝突は避けたものの、振り返ったソコには誰も居なかった。
脂汗はひいていた。
替わりに冷や汗がどっと吹き出した。
『わーっ』と逃げ出す様にその場を後にしても良かったのだが、三ガキ大将の意地と驚かしてきた奴の確認をしたい好奇心(からかわれた気がしたからムカついてたのもあるし、プライド?)からチャリを降りた。
非常階段と言っても1階半から外側は格子状になっていて見通しが効く。
逃げたら足音が響くのも知ってる。
2階の玄関扉が閉まった音も人の気配も無い。
揚句、先程の様にぶら下がるには格子みたくなってる手摺りを乗り越えなくてはならないのがよく判る。
仮に出来たとしても見えた胴体の位置からして誰かが格子から手を出し、ソイツの足首を掴んで…じゃないと体の位置からしておかしい。
じゃあアレは何だったんだ!?
無意識に近い状態で背後に警戒しながら1階に戻り、影のぶら下がってた近くに停めてたチャリに跨がり、急いでビールを買いに行った。
…帰宅後、親父に散々文句を言ったのは語るまでもない。
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