不思議話17:葬猫
※注意※自己責任で御覧下さい。
大阪に住んでいた小学生の頃の話。実家の正面にある大型団地に黒い大猫が打ち捨てられていた。
…触るとまだ温かい。
(当時からかなり無駄知識はあったから)脈を取ってみるも、猫は口から微かな血を滲ませ既に死んでいた。
車で撥ねられてから此処に投げ棄てられたのだろうか。
横たわる大猫に向かい『大人は勝手やな。酷い目にあったけど人は悪い奴ばっかや無いで。人間代表して謝る、御免な。』と自然に言葉が零れ出た。
一旦去ろうとするも当時小学生だった俺は無造作に捨てられている大猫を憐れ(あわれ)に思い、埋葬してやる事にした。
○棟と呼ばれる(不思議話[首吊り男]の)団地敷地内の公園なら植木も沢山あるし、そこなら踏まれなくて大丈夫だろうと大猫を抱き抱えた。
移動途中に穴掘り要員として妹を連れ、目的の団地の裏に着くと穴掘り掛かる。
時刻は夕方をまわっている。
いつもなら夕飯作りに帰って来る住人達が井戸端会議や通り掛かってもおかしく無いのだが、いつまで経っても誰一人として来ない。
…気付けば人の気配が無い所か何処からともなく猫の鳴声がするではないか。
『なぁ…、どっから猫鳴いてるんやろ…?』
どちらからとなく口にした疑問。
鳴き声から少なく見積っても15~20匹以上に周囲を取り囲まれてるとしか思えない。
夕闇が迫り、辺りが急速に暗くなり始める。
いつもと明らかに異なる空気を感じ、背筋に冷たいものが走る。
『うわ、ホンマや!!何かいっぱい鳴いてる…!!』
この大猫はボス猫で地域の猫達に慕われていたのだろうか。
光を失った猫眼が薄く夕日を写し、機械的に聞こえる鳴き声からは不思議と[監視されているのだ]と悟った。
会話中も穴掘りの手を休める事は無いが何となく気味が悪くなり、見通し利く所に出てみるも猫1匹すら見付ける事はなかった。
そうしている内も姿の見えない複数の鳴き声は、一定の間隔を保って俺達の周囲を回っている。
無感情に「にゃー…にゃー…」と鳴く声は俺達がこの大猫を殺したと思ったのだろうか、人間を恨んでる様が子供ながらに伝わった。
それに気付いてから思い切って大猫に話掛けてみた。
『お前こんなに慕われとったのに御免な、こんな事になってしまって。俺が詫びても筋違いだとは思うけど、さっきも言ったように人間は悪い奴ばかりじゃ無いから堪忍したって成仏しぃな。』
30分程して穴が完成し、埋葬した。
家から持って来た線香に火をつけ、塩を埋めた周辺に撒いて安らかに眠る様に一生懸命祈った。
…気付けば今度は鳴声が全くしない。
妹と薄気味悪いからといって残りの塩で(今で言う簡易祓い術の)跡切(アトキリ)を行なって帰宅した。
前々から怖い噂の絶えない電話BOXが見える位置での埋葬だったから、後になって[何であんな所に埋めようとしたんだろう]と軽く後悔したものだった。
あの日以来、今まで以上に何となくあの周辺を倦厭している。
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